これまで少なからず気になっていた詩『千の風になって』。今回、その原詩(英文・オリジナル版)を読むことが出来ましたので、それの日本語訳を私なりにしてみました。
翻訳詩『あなたの傍に』について
● 秋川雅史さんが歌ってヒットした歌『千の風になって』の歌詞は、作家の新井 満さんが当時は作詞者不詳だった「Do not stand at my grave and weep,」で始まる英文の詩を日本語訳したものです。
●その後、パレスチナ在住の井上文勝さんの粘り強い調査により、英文の詩の作者はアメリカ人のマリー・E・フライさんということが明らかになりました。
●また井上さんは、一般に広まっている上記の詩<便宜上、原詩・流布版(英詩)と記載>とは別に、マリーさん作成の詩<同、原詩・オリジナル版(英詩)>があることを突き止め、それをご自身の著書『「千の風になって」 紙袋に書かれた詩』に掲載しました。
●原詩・オリジナル版(英詩)を読んで、私はとても奥深い詩だと思い、これを自分の感性と解釈で日本語訳してみました。
●直訳とは大分違いますが、なぜそう訳したのか。原詩が作成された事情および英語の解釈の面からの、私の考えを後ほど述べるようにします。
●なお、当文書は<その2>の末尾に記載しているように多くの方々の書籍、WEBサイト、助言を参考にしてまとめたものです。また、詩の原作者のマリー・E・フライさんについての情報は、井上さんの著書『「千の風になって」 紙袋に書かれた詩』に基づいています。上記の方々に心からお礼申し上げます。
原詩・オリジナル版(英詩)
Do not stand at my grave and weep,
I am not there, I do not sleep.
I am in a thousand winds that blow,
I am the softly falling snow.
I am the gentle showers of rain,
I am the fields of ripening grain.
I am in the morning hush,
I am in the graceful rush
Of beautiful birds in circling flight,
I am the starshine of the night.
I am in the flowers that bloom,
I am in a quiet room,
I am the birds that sing,
I am in each lovely thing.
Do not stand at my grave and cry,
I am not there. I do not die.
- 詩の題名は書かれていません。
- この詩の出所は井上文勝さん著『「千の風になって」 紙袋に書かれた詩』です。
原詩・オリジナル版からの日本語翻訳詩
あなたの傍(そば)に
作 詞:マリー・E・フライ
日本語訳:鏡 清澄
別れを言いになんて 来なくていいのよ
私はそこに 眠っていないから
私は 風になって 空を自由に飛んでいるの
静かに降り積もる雪や
優しい恵みの雨が 私なの
豊かに穀物が実る大地 それが私よ
私は 朝の静けさの中に いるの
昼は 空に弧を描いて舞い
素早く高みへ昇っていく 美しい鳥が 私なの
夜は天に輝く星 それが私よ
私は 外で咲き誇る 花にも
静かな 部屋の中にも いるの
私は 幸せを運ぶ小鳥
いつもあなたを見守っている
別れを言いになんて 来なくていいのよ
私はいつも あなたの傍に いるのだから
原詩・流布版(英詩)
Do not stand at my grave and weep.
I am not there, I do not sleep.
I am a thousand winds that blow.
I am the diamond glints on snow.
I am the sunlight on ripened grain.
I am the gentle autumn rain.
When you awaken in the morning’s hush,
I am the swift uplifting rush
of quiet birds in circled flight.
I am the soft stars that shine at night.
Do not stand at my grave and cry.
I am not there; I did not die.
●詩の題名は書かれていません。
●詩の出所は井上文勝さん著『「千の風になって」 紙袋に書かれた詩』です。
●新井 満さんが訳し、秋川雅史さんが歌っている『千の風になって』も、ほぼこの流布版と同じ英詩を基にしています。
原詩・流布版(英詩)からの日本語翻訳詩
● 日本で一番広まったと思われる新井 満さんの訳詩『千の風になって』は、JASRAC(日本音楽著作権協会)の絡みがあるので、新井さんの著作やCD、および秋川雅史さんのCD、WEBサイト『うたまっぷ』などを参照ください。
●原詩・オリジナル版(英詩)および原詩・流布版(英詩)は、作者のマリー・E・フライさんが著作権の主張を辞退しているので、上述の通り当ブログに掲載しました。
●原詩・流布版(英詩)は、原詩・オリジナル版(英詩)が転記や印刷されて世間に広まる際に、原作者以外の人によって意識的または無意識的に改変され生まれてきました。そして、多くの人に配布されたものが主たる流布版になったのだと思われます。
原詩・オリジナル版が作成された経緯
●詩の作者のマリー・E・フライさんは1905年にアメリカのオハイオ州で生まれ、3歳の時に親戚の家に預けられます。親戚のおじさんの事故死後、手伝い女として盥(たら い)回しされ、悲惨な少女時代を過ごしました。
●12歳半になった時、自由になるために出奔して、北米東部のメリーランド州ボルチモアへ移住します。
●デパートのレジ係、映画館の切符売り係として働きつつ、市立図書館にある本をほとんど全て読みます。
●苦しい生活の中でも、学ぶことへの熱意を失わず、悲惨な状態であったからこそ、人・動物・花などへの優しさを身に着けました。
●マリーさんは心優しい男性と出会い、結婚します。
●そして、ヒットラーが台頭するドイツからアメリカへやって来たユダヤ人の娘のマーガレットさんと知り合います。
●マーガレットさんはドイツに残してきた母が亡くなったことを知り、母のお墓にお参りすることができないと、悲しみに打ちひしがれます。
●マリーさんは買い物の紙袋を破り取り、マーガレットさんを慰める詩を書いて、彼女に渡しました。それが英詩の原詩・オリジナル版です。
●ここでのポイント
①マリーさんは市立図書館の本を全部読むほどの勉強家であり、心根が非常に優しい人でした。
②マーガレットさんはドイツに自由に戻れない状態でした。
<その2>に続く
●『あなたの傍に』<その2>では、主に【『あなたの傍に』は、どういう理由で、このように翻訳されたのか】を述べます。